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藤田湘子の世界 pavo-9.png


俳句鑑賞
湘子の感銘句
  1. はじめに
  2. 初みくじ
  3. 一盞は
  4. 四萬十の
  5. 花に鳥
  6. わが不思議
  7. 蠅叩
  8. 父に金
  9. 血の中の
  10. 海藻を
  11. 生きてゆく
  12. 落葉して
  13. 人参は

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  by Ikuma Wadachi


定本『途上』より  (第一句集『途上』未掲載句)
  落葉して俯向きゆきて戀ひにけり  藤田湘子
 湘子二十四歳の作。この句を選ぶと、「おいおい俺にはもっといい句があるだろう」と先生に叱られそうだが、それでも選んでおきたい一句。
 一面に黄落した銀杏並木の下を、言葉も交わさず俯いて歩く男女を思わずにはいられない。紅落した渓谷の紅葉なら戀に付過ぎだろう。
 二十九歳で上梓した処女句集『途上』には、この句は無い。集をまとめるに当って全句を兄弟子の石田波郷に見せ、選を受けたものであった。
 しかし、秋桜子や波郷に気兼ねせず二十年後にまとめた定本『途上』では、「朧よりうまるる白き波おぼろ」などと共に、新たに十四句が加えられている。この句の何が心残りであったか、それを思うだけで若さが蘇って来る。



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