| 俳句鑑賞
 湘子の感銘句
 
はじめに
初みくじ
一盞は
四萬十の
花に鳥
わが不思議
蠅叩
父に金
血の中の
海藻を
生きてゆく
落葉して
人参は
 Haiku-Top
 
 by Ikuma Wadachi
 
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 定本『途上』より  (第一句集『途上』未掲載句)
 落葉して俯向きゆきて戀ひにけり  藤田湘子
 湘子二十四歳の作。この句を選ぶと、「おいおい俺にはもっといい句があるだろう」と先生に叱られそうだが、それでも選んでおきたい一句。
 一面に黄落した銀杏並木の下を、言葉も交わさず俯いて歩く男女を思わずにはいられない。紅落した渓谷の紅葉なら戀に付過ぎだろう。
 二十九歳で上梓した処女句集『途上』には、この句は無い。集をまとめるに当って全句を兄弟子の石田波郷に見せ、選を受けたものであった。
 しかし、秋桜子や波郷に気兼ねせず二十年後にまとめた定本『途上』では、「朧よりうまるる白き波おぼろ」などと共に、新たに十四句が加えられている。この句の何が心残りであったか、それを思うだけで若さが蘇って来る。
 
 
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