| 俳句鑑賞
 湘子の感銘句
 
はじめに
初みくじ
一盞は
四萬十の
花に鳥
わが不思議
蠅叩
父に金
血の中の
海藻を
生きてゆく
落葉して
人参は
 Haiku-Top
 
 by Ikuma Wadachi
 
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 第九句集『前夜』より
 四萬十の川海苔淡しひとり酒   藤田湘子
 湘子先生はお酒が好きだった。そして、それ以上に、いつも仲間や弟子たちと談笑しながら飲む雰囲気を楽しまれていた。
 既成概念の「ひとり酒」にはどこか寂しさがつきまとう。しかし、この句の酒は寂しくはない。きっと晩酌なのである。それも一合ほどの。日本中旅された先生が、土佐の四万十川(しまんと)を思いながら、そこで育った川海苔の光に透かしたような緑と香りを肴に、今夜も辛口の酒を味わっているのである。
 壮年の頃とは酒量も変わる。「芍藥に夜が來て飛騨の酒五合」などと比べると、また違った感慨が湧いてくる。
 わが心に沁み込んだ一句として残しておきたい愛誦句である。
 
 
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