「循環型社会に生きる企業と地域」
社会評論家 高杉 晋吾氏
2002年2月23日 12:30〜14:00
商品という物はどのようにヒットするか、商品はどのように消費者の心に届いてそれが
買われていくか、という話を少しさせて欲しい。
日本人はかつては血気盛んな国民だと言われていた(高杉さんが若い頃)が、今、我々
の状態を見ると、なかなか自分の気持ちを奥に潜めて表に出さない国民になっているよ
うに感じる。国際的な評価でも顔の見えない国民だとしばしば言われる。
しかし、商品は心の奥深くに届かないと、その商品は売れないと思う。小泉さんが首相
になったときに評価があがったが、それは「自民党を壊してでも改革をする」という言
葉が国民の心を打ったからだろう。これもヒット商品と言える。
日本人は地域の環境や川や湖を綺麗にしたい、大事にしたいという運動が広がってい
る。ただ、余りにそういう事が実現できる商品が我々の周りには少ない。だから、私達
は諦めているんだと思う。そういう事をするより前に、水の消毒は塩素で行ったりして
いる。それは諦めているから。しかし、企業が皆さんの気持ちに届くように最大限の
努力をすれば、その商品はヒットすると思う。
今、ソルトレークの冬季オリンピックで情けない気持ちになっている人が多いと思う。
日本選手の状況を見るとなんとなく憂鬱になると思う。その点は、環境問題も同じ。
北ヨーロッパ、スイス、ドイツの環境問題はすごい、と思って、日本の環境問題への
対策は遅れているという思いを持つだろう。
OHP1:大阪の枚方市のスイミングスクールの写真。
この中での問題:水が汚い、泳ぐと髪がパサパサになる。目がチカチカする。肌が
あれる。→スイミングスクールの経営にも影響。
中西悠子:バタフライ選手。一日1万メートル以上泳ぐが、そのとき塩素ガスを吸いな
がら泳いでいる。その塩素が何とかならないか?泳いでいる時は窓を全面開放してい
た。
→ 電解水技術(水道水を原料にして、電気分解して活性酸素がまず発生し、
次亜塩素酸が次に発生し、これが有機物を分解し長期消毒する。)
髪のパサツキもない、塩素ガスの漂いもない、これで中西選手はユニバーシヤードで
優勝した?
水の透明度も高くなった、塩素臭がなくなった、目鼻の痛みがなくなった、水着の色
落ちがなくなった、プールの経営が楽になった(除菌ができて衛生的、塩素濃度管理
の手間が省ける、水の入れ替えをしないで済むようになった、水道代・電気料が大幅
削減、藻が生えたり、ヌメリの発生が抑制、人手が省ける、機械へのダメージが少な
くなっていった)
→三洋電機の無洗剤洗濯機につながった
・電気洗濯機は洗剤と常に一体となって売られてきた
・これに対して、洗剤を使わない方法もあるという問題提起をし、
前年対比150%で、わずか5ヶ月で5万台を売り上げた。
→ 如何に消費者がこの商品を待ち望んでいたか。
三洋電機の鈴木課長が紹介される:
洗濯機の環境:
1. 水 → 風呂水ポンプ
2. 電気 → インバーター
3. 洗剤 → 最後に残された
これが負荷の内容
汚れの程度に応じてお客様に使い分けてもらう。
(ビデオ5分上映)
超音波で汚れをはがし、活性酸素と電解次亜塩素酸が汚れを分解する。
焼肉のタレ等がついたYシャツ、Tシャツがきれいになることを確認。
洗剤代:、水道代:1/2、電気代:1/3
技術的に完璧とは思わないが、ここで提起された問題を考えてみたい。
琵琶湖で開催された世界湖沼会議で
三洋電機の森重部長は
・琵琶湖の汚染は滋賀県の努力にもかかわらず相変わらず解決してないが、
これに対して、三洋が開発した電解水を提供する。他の技術も使って、
100年前の琵琶湖を取り戻そう、と提案した。
琵琶湖の問題は洗剤の問題でもあった。有リン洗剤から無リン洗剤へ変わっていった。
日本中の河川湖沼周辺住民もそういう動きをしてきた。
多くの人々が20〜30年間揺れ続けた問題に、「無洗剤」という提起がされた時に住民
の目が覚めた。企業の中でも洗剤を使うのが洗濯機だと思い続けてきたが、そうじゃ
ないと思って開発してきた人がいる。
日本では化学物質過敏症の人が増えてきている(500万人はいるだろう)
北海道の山田牧場は農薬も薬も使っていなかった。ここに逃げ込んだ女性がいる。
一切化学物質を使っていない旅館に逃げ込み、150万円宿泊代を払った。しかし
この生活は続けられないので、実家に帰ったが入れないので、庭に傘を差して寝た。
そして、山田牧場に逃げ込み、かなり元気になっている。こんな状況の人が何百万
人といる。
これほどひどくはないものの、化学物質を使わない洗濯機を開発しないといけないと
三洋の川添開発部長は思って、何年もかかって商品化にこぎつけた。
衣類乾燥機をしていた広田達也さん(技術屋)は自宅で洗剤を減らす実験をしていた。
洗剤を減らす洗濯機の開発には広い経験をもっていた。2人ですることになって、お金
の付かない実験を繰り返して、電解水技術に結びついていった。
電荷水は有機物の分解力が強いことを顕微鏡写真で示した(OHP3)。
三洋電機洗濯機の提起に対して沢山の受賞が
o 滋賀県エコライフ大賞(琵琶湖を汚すのは洗剤か?という大論争になった)
o 小学館DIMEトレンド大賞
o 日刊工業新聞十大新製品大賞
大事なことは消費者の心にどう届くか。消費者がどう考えているかわからないと売れ
ない。
熊本県宮原町:い草で栄えた町。しかし、い草は現在は中国に押されている。
負けずに、氷川という綺麗な川の環境を守ろうとしている。下水処理施設のの
排水溝から流れる水の状況をみると、泡が2m位の高さになることもある。
純粋な石けんを使って(その時に洗剤は使わない)それを全町民が使うという実験
をすると、泡がなくなった。(つまり、泡の原因は洗剤)
→無洗剤洗濯機を各家庭で使えば、この川の汚れはなくなるのでは、と思う。
実験したところ、現在8台の洗濯機が入っている。
(井戸水にも有効な仕様に変更して)消費者の声を商品化。
エコプロダクツの集まりも消費者と生産者の距離を縮めていこうとしているのでは?
諏訪湖上流:旅館が排水を流している。
:簡易型処分場でダイオキシンも何も処理されないままに水処理。
:源流から断っていかなくてはいけない。→企業は答えてくれるのか?
循環型社会を作らなくてはいけないこの時代に構造改革とは環境のありかたを企業
が考えるようなエコロジカルな体制を企業も含めて考えていくような形にすること
ではないだろうか?
無洗剤洗濯機に沢山の批判、反論があった。
批判の基準のあり方は、「きれいになる」「白くなる」「安くつく」というのが
基準だろう。「衣類はきれいにしたい。でも環境も大切にしたい。美しい琵琶湖
のほとりに立つ滋賀工場で環境を見つめた21世紀型の洗濯機が誕生しました」
と書かれたパンフが三洋においてあった。
性能と経済性だけを考える人に対し、今回の批判はすぐ届いただろうか?
しかし、批判の評価の基準に大問題がある。環境を大切にする、という基準が
抜けた評価の仕方でいいのだろうか?
もし、商品テストを行うなら、「衣類が綺麗になるとか、痛みがないとかいう評価はす
べきだ。しかし、洗濯機から出る排水を評価する基準を作りなさい。」と言いたい。
そうでなければ、経済性と白くなる、というような基準だけなら、蛍光増白剤が入った
洗剤を作りだすだろう。そうでなければ、何のための商品テストなんだろうか、と思う。
このような形の商品テストも大事。
洗濯機の排水が綺麗になれば、同じ水で2度も3度も洗える洗濯機を作るといい。
ライオン、花王の環境報告書を読んで欲しい。水質にかかわる企業だから、それに対し
ては、大変な努力をしている。環境負荷を減らすということを一生懸命している。
洗濯機メーカーも洗剤メーカーも環境負荷を減らそうとしている。双方とも同じ事を
言っているのに、何故論争になるのか?
妨害する人はいないが、具体的にどう表現しているか、みると、あらゆる物がそういう
形で準備されていない。社会的整備をちゃんとしていこう。
ドイツは洗剤法という法律があり、洗剤を利用する洗濯機は洗剤、水、エネルギーが
最小でなくてはならない、という法律がある。
事前配慮原則:今行われている便利な商品の便利な面にだけ着目していくのでは駄目。
このような問題提起をする上で、高知ではエコデザイン協議会という立派な組織があり、
その評価方法も具体的に決められている。このような集まりがどんどん活性化してい
けばいいと思う。
高知のこのような動きが日本中、世界中に広がっていくことを期待している。
講師のプロフィール
1933年秋田市生。早稲田大学第一文学部卒業。
団体記者を経た後フリーランス、社会評論家として現在に至る。
主な公職に伊那リサイクルシステム研究会アドバイザー。
元通産省「高度リサイクル社会構築に関する委員会委員」。
前長野県「社会環境アセスメント委員会」会長。
ISO14001認証機構判定委員。
主な著書に「日本のダム」「産業廃棄物」「産業エコロジー革命」
「循環型社会のモデルがここにある」等。
(文責:高知エコデザイン協議会 高村禎二)
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